2015/04/27
髪の知識
毛は生やせる! 驚きの最先端・発毛技術
「ヌードマウスに毛を生やすことに成功!」とい う衝撃の写真がさる4月17日に公開されて世界中を驚かせました。これは、東京理科大学の辻 孝教授のチームが開発した細胞操作技術の成果。「最近なんだか毛が薄いかも!?」と悩んでいる人には 希望を抱かせる研究です。
今回の成果は、毛髪再生のための技術開発、「毛包再生の技術」ということですが。
まず「毛包」について説明いたします。
「毛包」というのは毛髪を作るための「工場」です。この毛包は数年に1回、新しく作り直されます。これがヘアサイクルです。毛包には再生するための幹細胞があり、そのおかげで髪は何度でも生え代わることができます。
つまり、毛包を人工的に作って頭皮に移植 して、それがちゃんと働けば毛はまた生えてくるってことです!!
毛包を作り直すことができれば毛髪は生えてくるはずです。毛髪再生の大事なポイントは、毛包を作るための幹細胞が、大人になっても毛包の中にあって利用できると いう点ですね。
「大人になっても」というのは?
ほかの器官、例えば肝臓でも、歯でも、その器官を作り出すための幹細胞というのは胎児の時にしか見つかっていません。ところが、毛髪の場合は、大人になっても毛包さえあれば誰でもその幹細胞を持っています。
☆では、自分の毛包の幹細胞を取ってきて、「同じ機能を持つ毛包」が作製できれば解決できるわけです!!
そのための技術が今回の発表です。
●毛包の再生の段取り ちょっと難しい説明です。毛包というのは、 「上皮性毛包幹細胞」と「間葉性の幹細胞」である毛乳頭細胞という2つの「幹細胞」がセットになって働いて初めてできます。なので、こ の2つの幹細胞を組み合わせた「再生毛包原基」という、毛が生えてくるための、いわば「種」を作ります。この「種」を皮膚に「植える」と、それが毛包になって、毛が生えてくる という仕組みです(再生毛包原基移植と呼びます)。あるいは「種」から毛が生える段階までにまで育てて、それを株分けして、皮膚に植えてもいいわけです(再生毛包移植と呼びます)。
稲作を想像してもらうとわかりやすいかもしれません。「種もみ」の一粒一粒が「再生毛包原基」です。これを田んぼに直接まけば芽が出てきますが、「苗」(毛包→発毛)の段階まで育てて「田植え」した方が効率がいいですね。田んぼに直接まくのが再生毛包原基移植。「田植え」するのが「再生毛包移植」というわけです。
●ヌードマウスに毛が生えた! しかも元通りの毛を再現!
今回の実験では、マウスくんのヒゲから作製した「種」(再生毛包原基)を皮膚に移植してみると。約73%の頻度で元と同様の毛を発毛させることができたのです!
●今回の成果のスゴイ点今までの「毛髪再生」の成果というのは非常に大ざっぱなものです。例えば、胎児の皮膚組織を持ってきて、細胞2,000万個(毛髪10,000本分)を使って生えてきた毛が500本。しかも毛が異常な密度で生えたり、生える方向もまちまちであったり。とても人に応用できると言えるような精度ではありませんでした。しかし! 今回 の成果は、毛包への発生頻度の高さ、前述の「種」(再生毛包原基)を製作する技術の精度の高さなど、どれをとっても超一級なのです。
元はないところに毛を生やすことができるなんて!
ただ生えただけじゃないんです。「毛周期」もきちんと元通りなんですよ。
毛周期とは?先ほど説明した毛包の、成長期-退行 期-休止期のサイクルです。人間の場合は7年で 1サイクルなんですが、このサイクルが繰り返し行なわれないと、毛は生え代わりません。
毛周期も元通りということは、このマウス に生えてきた毛は抜けてもまた生えてくるってことなんです。元からあったのと同じように。
人間でも同じようにできるでしょう。もうひとつ、移植した「種」から「毛包」が発生して、周辺の組織ときちんと「接続できているか」も確認できているそうです。
つまり、例えば動物の場合は、寒い時に毛を立たせて保温効果を高めます。横になった毛が立ち上がる、立毛機能と言うんですが。今回の研究成果でも「生やした毛」の立毛機能があることが確認できています。
ということは、最初から生えていた毛と変 わらない、自分の毛になるということです。これは大事なことです。先ほどの毛周期もそうですが、立毛筋(毛を動かす小さな筋肉)や神経ときちんと接続されているということですから。
●「生える治療」は10年後から!?
もうスグにでも薄毛治療が始められそうですが、この技術で治療が受けられるようになるのはいつごろになるでしょうか?
ヒトの毛包から取り出した細胞を使った動物実験での検証、それが終わったら臨床試験ですが、それに3~5年かかるのではないでしょうか。実際に医療として行われるようになるまでには……10年後!!!!!!
それくらいはかかるそうです。
でも、ここまで完成されているとスグにでも治療が始められそうですが?
そうでもないようです、例えば毛周期。人間の場合は7年です。きちんと毛周期を持っているかを確認するだけでも7年かかるわけです、ほかにも、移植した細胞がガン化しないかなどの重要な点を確認してからでないとできません。
ちょっと残念ですが!!
今回発表されたのは、緻密(ちみつ)に、 細かく技術の土台を組みあげて作った、ある意味非常に日本的な精密な技術の結果になっています。治療の実施も性急に行うべきではないとされています。
●今からお金を貯めておこう!
今まさに薄毛に悩んでいるあなた。まったく心配要らないです! 将来は再生毛髪を「生やす」ことができるんです。最初はちょっと高価な医療になりそうですから、今からお金をためておくといいかもしれません!!
注……ヌードマウスは、正確には「ヌード」で はなく「うぶ毛」のような毛が生えるんだそうです。しかし、固い毛で、ある長さになるとポ キンと折れるのでいつまでも「ヌード」な状態なんです。
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